2014年3月アーカイブ

2014年3月 1日

手の内を見せない

 「手の内を見せない」とは、相手方にこちらの対処法を明らかにしない様をいいます。皆様も「ライバルには手の内を見せない」といった使い方をされると思います。弓道では弓手の手の内(左手の弓の握り方)は古来より各流派の秘伝であり、当然他流派に手の内を見せることなどあり得ないことでした。このことが日常会話でも使われるようになったのではないかと弓道家は思っていますが、「手の内」は弓道の専売特許というわけではなく、剣道や三味線など手を使用する様々な武道・芸事には必ず「手の内」があり、これらが集約されてこの言葉が生まれたのでしょう。

 弓道では弓の握り方一つで的中・貫徹力・矢飛び(矢が振動せずにまっすぐ飛ぶこと)に大きな影響がでるため、「手の内」は初心者にとっては習得するのに時間がかかる難題です。「なんだ、弓の握り方くらいどこが難しいんだ。」という声が聞こえてきそうですが、こればかりは言葉では説明しがたく実際に体験していただいて初めてわかるものです。とはいえそれでは話が終わってしまうので、敢えて一例を挙げてみます。
 弓道では「弓返り」といって、矢を発射した直後に左手の中で弓が一回転します。矢を発射する際に弓にかかる負担の一部を回転力に変換しているのです。このことにより弓の寿命が延び、同時に冴えた音(弦音)が出ます。ではどのように弓返りをさせるのでしょうか。矢を発射するときに弓を堅く握っていては当然弓は回転しません。それでは発射と同時に握力を緩めるのかというと、そうでもありません。この方法論が各流派に秘伝の「手の内」として伝えられてきた訳です。
 現在では「手の内を見せない」ということはなく印刷物やインターネットは勿論、指導者からも手の内はすべて明らかにされています。それでも正しく習得することは大変難しく、弓を引く人は「手の内」を一生かけて追い求めなければならないのです。                E.H